アラームは「敵」ではなく「患者さんの声」
「ピーピー鳴ってうるさい」「焦って何をすればいいか分からなくなる」
人工呼吸器のアラームに対して、そんな苦手意識を持っていませんか?
新人ちゃん「また高圧アラーム! とりあえず吸引すればいいんですよね…? 音を止めるので精一杯です。」



「その気持ち、すごくわかるよ。でも、アラームの本当の原因を探らずに『音を止めるための作業』を繰り返すと、肝心な病態の変化を見逃してしまうんだ。今日は、アラームを『患者さんからのメッセージ』として読み解くための『思考の型』を身につけよう。」
【最優先】アラームが鳴った時の「黄金の3ステップ」
多くの人が「アラーム確認 ➡ 消音 ➡ 対応」の順で動いてしまいますが、これは危険です。本当の優先順位はこうです。
- 患者さんのバイタル確認(最優先!): 脈拍、呼吸数、表情を見る。SpO2が下がるのを待っていては遅い!
- 崩れているなら: すぐに応援(スタッフコール)とドクターを呼ぶ。パニックになる前に助けを呼ぶのが一番の正解。
- アラーム内容を「把握」してから消音: 安易な消音は厳禁。消音中はその後の「別の重大なアラーム」に気づけなくなるリスクがあるから。
- 原因検索へ: ここで初めて「何が起きているか」を考えます。
CE直伝:呼吸器と患者を「切り離して」考える
急な低換気や低圧アラーム。「機械が壊れたの? それとも患者さんの急変?」とパニックになりそうな時こそ、この思考法を。
「迷ったら、テスト肺(人工肺)に繋ぎ変える」
- ケースA:テスト肺でもアラームが鳴る場合 ➡ 「呼吸器側」の問題
- フローセンサーの故障など呼吸器側の可能性大。すぐに代替機を準備。CEへ連絡!
- ケースB:テスト肺では正常に動く場合 ➡ 「患者側」の問題
- 緊張性気胸、重度の気管支攣縮、チューブトラブル。医師にバッグ換気(アンビューやジャクソン等)を依頼し、患者さんの救命に全力を。
患者側の問題なら「ABCDEバンドル」で考えてみる。
基本のABCDEバンドルを思考プロセスに組み込むと、アセスメントが整理されます。
次は患者さんのアセスメントです。ここで役立つのが、集中治療の基本『ABCDEバンドル』です。
- A(Airway):通り道は大丈夫?
- 最高気道圧(PIP)をチェック。痰、回路の折れ、噛み込みがないか?
- B(Breathing):肺そのものは大丈夫?
- プラトー圧をチェック。気胸や肺水腫など、肺の膨らみやすさ(コンプライアンス)に変化はないか?
- C(Circulation):循環に響いていないか?
- 陽圧の影響で血圧が下がっていないか? 苦痛で脈が上がっていないか?
- D(Delirium/Drug):鎮静・鎮痛は適切か?
- 暴れてアラームが鳴るなら、設定の前に「痛みやせん妄」の評価を。
- E(Early Mobility):離脱のサインか、それとも「無理」か?
- 自発呼吸が強いのは良い兆候ですが、「酸素化(P/F比)」と「換気効率(PaCO2)」が伴っていることが絶対条件です。数値の裏付けがない無理な呼吸は、肺を傷つける(P-SILI)原因になります。
ABCDEバンドルの「E」において、自発呼吸が強いのは良い兆候ですが、条件があります。



「自発呼吸が強くても、酸素化(P/F比)や換気効率(PaCO2)が伴っていないなら、それは『頑張りすぎ』。無理な呼吸は肺を傷つける(P-SILI)から、数値の裏付けを見てから医師へ提案しようね。」
抜管後のサポートとしてHFNCへの切り替えを検討するなら、こちらの基準をチェック。


波形で診る「高圧アラーム」の正体
最高気道圧(PIP)とプラトー圧を比較すれば、原因は一発で見抜けます。
| 波形の変化 | 疑うべき病態 | 具体的なアクション |
| PIP(最高圧)のみ上昇 | 気道抵抗の増大 | 吸引、回路の折れチェック、バイトブロック装着 |
| PIPとプラトー圧が両方上昇 | コンプライアンスの低下 | 肺が硬くなっている(気胸、肺水腫など)。医師へ報告 |
| 流速波形のギザギザ | 回路内の結露、ファイティング | ウォータートラップの清掃/回路内に貯留した分泌物や水の除去、鎮静・鎮痛のアセスメント |
プラトー圧が上がっているなら、Driving Pressure(駆動力)もチェック。肺保護戦略が守られているか確認しよう。
関連記事
波形の変化と合わせて、血液ガスで換気効率を確認する方法はこちら。


AIや自動化が進む今、なぜ「考える力」が必要なのか?
最近では「インテリジェント・アラーム」を搭載した優秀な機種(ハミルトン社など)も増えています。機器が自動で最適解を出してくれる時代は、すぐそこまで来ています。



つまり今やってる仕事もどんどん楽になると…



「でもね、ここで立ち止まって考えてほしいんだ。メーカーが混在する現場では『配線の壁』『設定の壁』ががあって、すべてのデータが同期できるわけじゃない。そして何より、機器が賢くなるほど、私たちは『考えなくなる』リスクを抱えているんだよ。」
もし自動設定が標準になったとき、仕組みを理解していない医療従事者は、機器の限界やエラーに気づけなくなります。 「なぜこの設定なのか?」「なぜこのアラームなのか?」 その根拠を突き詰める姿勢こそが、技術が進歩しても変わらない、私たちの「最後の砦」になります。
まとめ:アラームを通して「呼吸」を診る



「アラームを止めることに価値はない。アラームをきっかけに、患者さんの状態を評価することに価値があるんだ。」
数値と波形を根拠に、医師やCEと対等にディスカッションできるナースへ。そんなあなたの視点が、現場の医療を支えます。
今回の「アラーム対応」の土台となる「人工呼吸器の基本」をおさらいしたい方はこちら


📚 参考文献・エビデンス
- ABCDEバンドル(人工呼吸器離脱プロトコル)
- Alarm Fatigue and Patient Safety Research
- Hamilton Medical: Intelligent Ventilation (ASV) White Paper





