人工呼吸器の設定は、医師が決定します。それが原則です。
でも――
観察するのは誰でしょうか。異変に最初に気づくのは誰でしょうか。
現場にいる看護師やCEです。
だからこそ、
「この設定、なぜこうなっているの?」
を理解しているかどうかで、患者さんの安全は大きく変わります。
ARDSでは、肺は“硬い”のではなく“壊れやすい”
ARDSの肺は、炎症と水分でベチャッとしています。 全部が硬くなっているのではなく、**「まともに空気が入る場所が、極端に少なくなっている」**のです。
みなみの視点: 「大人の体格なのに、使える肺のスペースは子供サイズ。そこに『大人用』の空気をドカンと入れたら……。残された数少ない元気な肺胞は、引き裂かれるように膨らんで壊れてしまう。これが VILI(人工呼吸器関連肺障害) の正体なんだ。」
だから、ARDSでは「しっかり入れる」ことよりも、**「壊さない範囲で、そっと入れる」**ことが最優先されます。
② なぜ「実体重」ではなく「身長」で決めるのか?
肺保護換気の目安は 1回換気量(VT) 6mL/kg。 ここで新人さんに「体重って、どっちの体重ですか?」と聞かれたら、自信を持ってこう答えましょう。
「予測体重(PBW)、つまり身長から計算した体重だよ」と。
実は、肺の容量は太っても痩せても変わりません。肺の大きさは「身長」で決まるからです。 100kgの患者さんでも、身長が160cmなら、肺のサイズは160cmの人用。実体重で計算して大量の空気を入れるのは、肺にとって「過剰摂取」になってしまいます。
③ 守るべき「4つの聖域」
肺を守るために、私たちがモニターでチェックすべき数字は4つあります。
- 一回換気量(VT):6mL/kg(PBW)
- ARDSの鉄則。多ければ良いわけじゃ無いよ。
- プラトー圧(Pplat):30 cmH₂O 未満
- 肺胞にかかる直接的な圧。30を超えると、肺胞が悲鳴を上げ始めます。
- Driving Pressure(ΔP):15 cmH₂O 以下
- **(Pplat - PEEP)**で計算。肺がどれだけ「引き伸ばされたか」の指標です。最近、最も注目されている数字ですね!
- FiO₂(酸素濃度):必要最小限
- SpO₂ 92~96%を目標に。酸素そのものも、濃すぎれば肺を傷つける「毒」になり得ます。
④ 「守られない側」を監視する
前回の復習ですが、ここは何度でも言いたいくらい大事なポイントです。
- VC(従量式):量は守られる。だから**「圧(Pplat)」**を監視する。
- PC(従圧式):圧は守られる。だから**「量(VT)」**を監視する。
「設定した方は機械が守ってくれる。設定していない方は、患者さんの肺の状態で変動する。」 この視点が人工呼吸器管理の基本姿勢です。
🧭 相談できる人になるための「一言」
主治医へ「設定を変えてください」と言うのは勇気がいりますが、**「事実を共有する」**のは私たちの義務です。
- 「VT 6mL/kg設定ですが、プラトー圧が32まで上がっています。換気量の設定を検討しますか?」
- 「PC設定ですが、肺が硬くなったのかVTが落ちてきています。圧の再評価をお願いできますか?」
根拠(エビデンス)を持って相談するあなたは、もう単なる「指示を待つ人」ではありません。
🧠 まとめ
肺保護換気とは、「壊さない範囲で、命をつなぐ」こと。 私たちの役割は、数字の裏にある「肺の叫び」に気づき、チームで共有することです。
みなみ人工呼吸器は『治す機械』ではなく、肺が治るまでの時間を『稼ぐ機械』。 その時間を、肺を壊さずに稼ぎきれるかどうか。それは、モニターを見つめる君の視点にかかっているよ!
🍰 参考文献
- The ARDS Network (2000): Ventilation with lower tidal volumes for acute lung injury and the ARDS. (N Engl J Med)「6mL/kg」の根拠となった、呼吸管理の歴史を変えた論文です。
- Cochrane Library: Low tidal volume ventilation for ARDS.死亡率を下げることが証明されている、最強のエビデンスです。
- Amato MB, et al. (2015): Driving pressure and survival in the ARDS. (N Engl J Med)「Driving Pressure」の主役となる論文です。




