「自発が出たから安心」の落とし穴
前回の記事で、Driving Pressure(ΔP)の目安は「15未満」とお話ししました。 でも、それはあくまで**「患者さんがぐっすり眠っていて、自発呼吸がない」**時の話。
臨床現場でよくある、こんな場面を想像してみてください。 「自発が出てきたから、PSV(プレッシャーサポート)に切り替えよう」 「設定上のΔPは10。よし、15未満だから肺は守られているね!」
……実はこれ、注意が必要な場面かもしれないんです。
① 「人工呼吸器の押し力」+「患者さんの引き力」
補助換気(PSVやA/Cのトリガーあり)では、肺を膨らませる力が「二系統」になります。
- 呼吸器の圧(設定したPSや吸気圧):外から「押す」力
- 患者さんの吸気努力(陰圧):内側から「引く」力
呼吸器のモニターに表示されるプラトー圧やΔPは、あくまで「外から押した力」がベースです。 患者さんが必死に「ハァハァ」と自発呼吸が強い時には、肺の内側には猛烈な**「引き込む力(陰圧)」**がかかっています。
みなみ呼吸器の数字だけ見ると『優しく押している(ΔP 10)』ように見えても、内側から『力いっぱい引っぱっている』なら、肺胞にかかる合計のストレスはとんでもないことになっているんだ。これが、見かけ上の数値に騙されてはいけない理由だよ。


② P-SILI(自己誘発性肺損傷)という恐怖
「良かれと思って出している自発呼吸が、実は自分の肺をズタズタに引き裂いている」 これを P-SILI(Patient Self-Inflicted Lung Injury) と呼びます。
例えば、PSV設定で数値上は安定していても……
- 呼吸回数(RR)が30回を超えている
- 補助筋(首の筋肉)を使って必死に吸っている
- 1回換気量(VT)が体重あたり9ml/kgを超えて出すぎている
この時、肺は「守られている」のではなく、**「自分で傷つけている」**状態に近いかもしれません。数値上のΔPが低くても、実質的なダメージは深刻です。
P-SILIについて参考にどうぞ!


③ 「数字」ではなく「患者さん」を見る
「ΔP 15未満」は、あくまで一つのヒントに過ぎません。補助換気中、私たちが本当に見るべきは以下のポイントです。
- 呼吸のパターン:苦しそうな引き込み呼吸はないか?
- 同調性:機械と喧嘩(ファイティング)していないか?
- ガス交換の質:pHは保たれているか? 頻呼吸で無理やりCO2を飛ばしていないか?
みなみの結論: 「ΔP(ドライビングプレッシャー)は、補助換気下では**『過小評価』**されやすい。だからこそ、数字だけを見て安心するのではなく、ベッドサイドで『患者さんの呼吸の質』を評価する君の目が、何よりも正確なセンサーになるんだ。」
🧭 チームへ「根拠」を提案する
「自発があるから順調だね」と言う医師に対し、こう相談できたら最高です。
- 「設定上のΔPは低いですが、補助筋の使用が強く、P-SILI(自己誘発性肺損傷)のリスクがあるかもしれません。鎮静を少し足すか、モードの再検討をしませんか?」
- 「自発が強すぎて、1回換気量が出すぎています。肺保護の観点から、少し設定をタイトにしませんか?」
これが、**“指示を受ける人”から“病態を共有する人”**へのステップアップです。
🧠 まとめ
Driving Pressureは大事な武器です。 でも、補助換気では「単独で信じてはいけない」のが鉄則。
ΔPを語れる人になる。 でも、ΔP「だけ」を語る人にはならない。
正解は一つではありません。今日も「病態との対話」を楽しみながら、ベッドサイドに立ちましょう!




